1.プール学習の意義
肢体不自由の子どもたちは、陸上では普段、運動機能障害という基本的なハンディキャップに加え、重力の支配制約を受けるため、身体を自由に動かすのが容易ではないことが多く、ストレスがたまりやすいものです。
水中では重力から解放され、更に浮力という水の持つ物理的作用を得ることで、陸上に比べ、身体もよく動かすことができます。
このことは、
①「運動機能面における可能性の広がり」
と合わせて、解放感や爽快感を味わうという
②「精神面における大いなる可能性(学習・生活行動面に及ぼす好影響)」
をも期待できます。
よって、プール学習は、本校の児童生徒にとって心身両面における良好な発達を促すための有効性の高い手段であると考えています。
2.ねらい(運動機能的・健康の維持増進・精神面の観点から)
・全身のリラクゼーション
・各関節の変形拘宿予防
・上肢、下肢、体幹などの全身の筋肉への刺激及び強化
・各関節の関節可動域の確保
・呼吸、心肺、循環機能を高める
・皮膚の鍛錬
・粘膜の強化
・各種運動感覚の体得(浮力を利用して陸上ではとることのできない立位、うつ伏位などのさまざまなポジショニングの習得)
・モチベーション(生活全般に対する自信、勇気、意欲)の向上
・QOLの確立
3.本校で実施しているプール学習 標準プログラム
(1)標準プログラムA(重度児用)
プログラム | 時間 | 備考・留意事項 | 音 楽 |
1. (ダッコ)入水 | ●ハンドリング ・足先から徐々にゆっくりと入水するようにする。児童生徒には丁寧に接し、声掛けを怠らないようにする。 | ・呼吸や脈拍を刺激しない、ゆっくりとした静かな音楽。 | |
2. リラクゼーション | 3分 | ・マンツーマンでスキンシップを十分に図りながらのダッコ 対応を基本とする。ヘッドフロートやアームフィクス、浮き輪などのエイド (用具)を使用せずに、ダッコによるボールポジションなどを基本にして筋緊張の弛緩、緩和を図る。声掛けを怠らないようにする。 ●ハンドリング ・ボールポジション→揺れ(上下左右)→ボールポジション→揺れ(上下左右)… (強度と時間に変化を持たせるようにする) ・介助者の体から徐々に離しながらリラック スできるようにもっていく。 | ・ストレスを軽減するような音楽。具体的には ゆっくりとしたテンポで、同じリズムの繰り返し。音量は控えめにする。 |
3. 背浮きの振り子 | 4分 | ・エイド類は使用しない。下肢を支点にした振り子動作は基本的に避けるようにする。 ●ハンドリング ①その場振り子(振動の幅やスピードに変化を持たせる) ②移動振り子(スラロームや円状に移動しながら) ・後頭部、肩、頚部などを支持(介助)しながら行う。 ・(腹臥位での振り子も可能なら実施) ・水の流れに一体化しているようなリラクゼーション状態にもっていく。 | ・リラクゼーションをイメ ージしながらも、やや動きのある音楽を使用。音量は 「2.」よりやや大きく。 |
4. アップダウン | 3分 | ●ハンドリング ①その場アップダウン(介助者のポジションを前方、後方と変化させながら) ②移動アップダウン(円状などに移動しながら) ・垂直方向への動き。児童生徒を過緊張にさせないように介助者のハンドリングに留意する。強度(沈める深さスピードに留意する。 ・垂直方向の動きとポジションを体験できるようにする。 | ・躍動感がありテンポはやや速め、曲想の明るい曲を使用する。音量はやや大きめ。 |
5. 水中体操 | 5分 | ●ハンドリング ①上肢のストレッチング(指、手首、肘、肩) ②下肢のストレッチング(足首、膝、股関節) ・ダッコポジショニングを基本とするが、児童生徒の体の大きさやストレッチング実施の部位により、水中ベンチやエアレックスマットなどのエイドも使用して行う。 ・温水の効用(浮力、温熱作用、静水圧、動水圧など)を用いて身体各部位の筋緊張の緩和と、変形・拘宿の予防と改善を図る | ・ゆっくりとストレッチングできるよう、ゆったりとした曲を使用。音量はやや小さめ。 |
(2)標準プログラムB(中・軽度児用)
プログラム | 時間 | 備考・留意事項 | 音 楽 |
1. ヒーリングリラクゼーション | 3分 | ・ヘッドフロートやアームフィクス、浮き輪など のエイド(用具)を使用せずに、背面位での伏し浮きのポジションなどを基本にして筋緊張の弛緩、緩和を図る。エアレックスマットなどは実態に応じて使用する。 ・介助者の体から徐々に離しながらリラックスできるようにもっていく。 | ・入水用テーマは爽やかな曲。 呼吸や脈拍を整えられるゆっくりとした静かな音楽。音量は控えめにする。 |
2. 腰掛けキック | 1分 | ・プールサイドまたは水中ベンチに座して、実態に合った深さで水中キック。 | ・明るいイメージでアップテンポの曲。音量はやや大きく。 |
3. アップダウン | 1分 | ・縦方向の浅い潜り。介助者も一緒に動くようにする。 | ・躍動感のある曲。音量はやや大きく。 |
4. 水中エアロビクス 上肢の運動(8種類) | 4分 | ・1運動30秒で8つの上肢動作。水圧、浮力、水の抵抗を感じられるようにする。①前方へ押し出す②横に押し出す③上から下へ押す④下から上へ押す⑤平泳ぎのように(内側から外側へ)⑥外側から内側へ⑦クロールのように⑧背泳ぎのように | ・ゆっくり大きく動けるように、ゆったりとした感じの曲。音量はやや大きく。 |
5. 水中エアロビクス 下肢の運動(7種類) | 7分 | ・1運動1分で7種類の歩行動作。流水圧と水の抵抗を感じられるようにする。①前方歩行②ランニング③背面歩行④サイドステップ⑤スキップ⑥ジャンプ⑦旋回歩行 | ・それぞれの動きにあった曲想、リズム、テンポをもつ曲。音量はやや大きく。 |
《休憩》 | 30秒 | ||
6. 伏し浮き | 2分 | ・全身のリラクゼーションを図る。 | ・ストレスを軽減するような曲。 同じリズムでゆっくりとしたテンポのもの。音量はやや小さく |
7. 蹴伸び | 2分 | ・プールの壁を思い切り蹴る。リラックス&テンションを学ぶ。(自分で運動を起こすことを意識できるようにする) | ・やや動きのある曲。音量はやや大きく。 |
8. ローリング | 2分 | ・横向きでのバランスと体のコントロールを学習させる。 | ・明るい感じの曲。音量はやや大きく。 |
9. 深い潜り | 3分 | ・リング拾い、リングくぐり、水中パス。 ・水の抵抗や水圧を体全体で感じ取ることと、垂直方向の体のコントロールを学べるようにする。体の細かなバランス能力が必要とされるため、 粗大な動きと微細な動きの統合の練習ともなる。 | ・明るいアップテンポの感じの曲。音量はやや大きく。 |
10. 座り飛び込み | 2分 | ・自発的に水中に入っていくことを目的とする | ・明るい感じの曲。音量はやや大きく。 |
11. 個別プログラム&ゲーム (泳法習得・能力維持のためのトレーニング、ゲーム) | 8分 | ・個別課題を追う。 ・スイミングエイドなどの用具を用いた遊び、ゲーム的な要素を取り入れた集団遊びやリトミックなど。 | ・明るく楽しい感じの曲。音量はやや大きく。 |
4.プール施設
大プール 普段活動することが多い、メインのプールです。この写真ではちょっと見づらいのですが、水中ベンチを沈めて、浅い場所での活動もできるようになっています。 | 小プール 歩行練習などをする際に使う小プールです。手前にリフトがついており、入出水のときに利用できます。また、ジェットバブル機能があります。 |
更衣室 車椅子が入るため、広めのスペースになっています。高さの違う2種類のベンチの上で着替えさせます。 | お風呂 体温調節の難しい児童生徒も多いため、気温が低い日などはプールから上がった後で体温が下がらないようにお風呂を利用します。 |
開閉式天井 4Fにプールがあるため、真夏には室温が40°を超えてしまう日も多く、そういった日には天井を開けることによって室温を調節します。 | シャワーチェア 水中用の車椅子です。プールサイドの移動や、シャワーを浴びる際に使用します。数種類の中から児童生徒の実態に合ったものを選んで使用しています。 |
エイド ヘッドフロート、アームフィクス、浮き輪、ビート板等のエイド類です。 |